2015/12/27 11:31

 自分で言うのもなんだけど、僕は相当な粗忽者(そこつもの)だと思う。
 先だっても、行きつけのコーヒー店を出る時に、透明な両開きのドアの閉まったままの側に思いっきりおでこをぶつけた。ドアの手前の棚に飲み終わったカップを置いて店を出るのだけど、置いて左に振り向き、なぜだかそのまま閉まっている側のほうに突進する。いやはや。実は、これで三度目。今回は翌日までおでこにほのかに瘤が残った。ちょっと痛かった。でもさすがにこの店は立派なものだ。ちっとやそっとでガラスが割れたりはしない。 
 それだけじゃない。マグカップをカウンターで受け取って席に着くまでに、何度かコーヒーをこぼしている。この場合、どういうわけか表面張力はあてにならない。なみなみとカップの縁まで注いでくれるので(これはきっとサービスしてくれているに違いない。なにしろ常連だからな)、腰を後ろに引いてへっぴり腰の要領でそろそろと運ぶのだが、それでもすでに三度はこぼした。一度は店のスタッフがそっと拭き取ってくれた。二度目はボスが後始末をしてくれたが、三度目はなんだか申し訳ないし、量も少なかったので、見て見ぬ振りをしようと思ったのだが、こぼれた液体がキラリと光っている。やっぱり放っておくわけにもいかず、カウンターの目の前だったけど、こっそりとしゃがんで、極力何食わぬ顔でティッシュで拭き取った。何食わぬ顔がポイントです、この場合。実際には、ちょっと顔が赤らんでいる。
 言い訳をするわけじゃないけど、歳のせいか目がかすみつつあるし、体幹の筋力もやっぱり少しずつ衰えてきている。先だってから、大きい方のマグカップに入れてもらうことにした。すぐにこぼすからと正直に告白して。でも毎度のことだから、最近はなんだか頼むのもちょっと恥ずかしくなってきた。嫌だね年寄りは、なんて噂にのぼりたくないし。袖の下というわけじゃないけど、スタッフの心象が悪くならないことを切に願って、シリンクス君を通して自家製のクリスマスカードを配ってもらった(ホントにつまらないものですけど)。
 来年はもう少し気持ちをゆったりと構えて、この「粗忽」からなんとか抜け出したいと目論んでいる。でも、もしそれが上手くいかないようなら、仕方がない、誰にも気付かれないように、この店からこっそり姿を消す他はない。なんという悲壮な決意。嗚呼。