2015/11/01 10:16

 池波正太郎みたいに食べ物ではなく、僕は散歩の時はコーヒーが飲みたくなる。それも、無性に(ビールならもっといいけど)。散歩といっても、ほとんどウォーキングというべき性質のものなので、早足で30分も歩いているとさすがに汗もかく。この時、いい塩梅に、いい所にコーヒーショップが待ってくれている。コーヒーよりスポーツドリンクだと誰かさんから叱られそうだけど、そんなことは僕の知ったことではない。もちろん、夏場は水分の補給も忘れませんさ。
 これがヨーロッパのような美しい街中を歩き回るのであれば、どんなに楽しいかと思うけど、この国でそれを望むのはちょっと無理ですね。せめて電柱や変な看板をなくしてくれれば有難いのだが。僕が住んでいるところは、それでも新興の住宅地なんかじゃなくて、畑があったりするところで(鎌倉のウクライナと僕は勝手に呼んでいる)、小高い山が点在する、自然の多い、なかなかいいところだ。
 駅まで歩くコースも案外捨てたものではない。一番好きなコースは、峠(のような)を越えて、栄光学園の前の見晴らしの良い道を駅の方に下って行くコース。道を彩る家々の前栽なんかも季節ごとに目を楽しませてくれる。もう一つは、清泉女学院中学高等学校の門の前を緩やかに下って、植木小学校やら玉縄小学校の前を通って駅に出るコース。こちらのほうが、ちょっと遠い。僕はそのときの気分でどちらかを選ぶ。他にもいろいろと、あちこちと、散歩のコースはある。でも、いい気分で歩けるのは、この二通り。
 ちょっと血糖値が高めなので(これは遺伝だと思う)、医者からは毎日1時間ぐらいは歩くように勧められている。だから、毎日30分ほどかけて駅のほうまで歩き、コーヒーショップで小半時休んで、ついでに買い物をして、また歩いて戻ってくる。これだと1時間強歩けることになり、理想的。コーヒーショップであまり長っ尻をしないのは、ゆっくり過ごす時間の余裕がないこともあるけど、だいたいこういう店は廻転でもっていると思うからだ。ごく手頃にコーヒーがいただける分、それぐらいの気遣いをしなくては罰があたるというもの。例えばパリのカフェなんかをテレビで見ていると、近所の人やなんかが仕事の合間にスイとやってきて、コーヒーを飲みながらちょいとおしゃべりを楽しみ、またスイと仕事に戻っていく。いいね、洒落てるね。こうこなくちゃね。僕の行きつけのコーヒーショップはこの街では出色の店だと思う。毎日をとても素敵に、豊かに彩ってくれていることは確かだ。嬉しい。パリでなくたって十分楽しい。
 毎日のようにコーヒーショップに立ち寄るので、当然スタッフの方々とも顔見知りになる。中には懇意になった方も何人か。皆さん、綺麗で気が利いた人たち。嗚呼、僕ももう少し若ければ、なんて思うぐらい。もちろん、それがどなたであっても、僕は微笑みをもらうだけで元気になる。今日もしっかり仕事をしよう、という気になる。とても有難い。ただ、夏場は仕事に差し支えるのでなかなか行けなかったが、秋からこちら毎日のように顔をみせるとなると、なんだか偏執狂のような、ストーカーのような、下心でもあるような、そんな変なおじさんに映るのではないかと懸念が先に立つ。皆さん、どうかご心配なさらず。僕は、もう少し上等な人間です。自分で言うのも変だけど。
 毎日のように散歩で休憩に立ち寄るけど、どうかどうかご容赦のほど。飽きもせず通ってくる変なおじさんぐらいに見ていてくださると幸い。さてと、今日も散歩に出なくちゃ。