2015/06/13 14:40

 今日、成城石井でドイツ製の「プンパーニッケル」を手に入れた。プンパーニッケルというのは、ライ麦パンのいちばん濃いヤツ。変な言い方だけど、つまりライ麦100%のパンで、酸っぱくて、ねっとりとした感じ。僕はこれに同じように少し酸味のあるクリームチーズを塗って、薄切りのハム(生ハムでなくても良い)を載せる。ちょっと食べづらくて、とても素敵。もう随分長いこと陳列棚から姿を消していて、ほとんどあきらめかけていたのだが、今日は店の近くに来たとき、ピンときた。あるかも。ひょっとして。
 これを初めて食したのは、その昔銀座の並木通りに店を構えていた「ケテル」というドイツ料理店だった。僕は若い頃、大井町の駅近くの三畳間のアパートで長く貧乏な暮らしをしていたが、一番上の、歳の離れた兄が時々上京することがあり、その時によくその店で奢ってもらった。
 初めて口にしたとき、なんだこれは、とびっくりした。しかし慣れてくると、案外オツなものだな、とも思えてくる。「人間は一体何を食べて生命を維持してきたか?」というような原初的なテーゼが、これを口にするたびに頭に浮かぶ。いつも、ちょっと厳粛な気分になる。ああ、父がシベリアに抑留されていたときに毎日食べていた黒パンというのは、きっとこれのことだ、と初めて食したときに思った。たぶん、これに違いない。本当に、黒い、というか、濃い焦茶色をしているし、ギッチリと詰まった感じで、重い。ああ、ロシアの人々もこの黒パンで生きながらえてきたのだ。いやあ、凄いなあ。
 これを食べながら、僕は今は亡き父のことや、田舎にいる兄たちのことを、思うともなく思っている。僕は彼らをとても好きだったし、今だってそう。ともかく、父や兄たちから受けた恩は、とても、とても深い。
 「プンパーニッケル」とは、僕にとって、まあだいたいそのようなもの。